これは実話に基づいた物語です。
元ネタはこちら。
細かい部分で日本語訳を間違えるかもしれませんが、物語の大筋として読んでください。
90年代に自分が子供だった頃の話を、日本でいう「2ちゃんねる」のようなサイトに投稿したのがこの物語の主人公。
たぶん私と同い歳くらい。
この物語を読んで、私が日本で子供だった頃に海の向こうの遠くのだれかも私と同じように子供時代を過ごし、大切な出会いをしたり、その思い出を今も大切に心の中にしまっているんだと思うと、温かい気持ちになりました。
考えてみれば当たり前の話ですが、海の向こうの遠く遠くの地でも、今日自分が悩んだように悩み、今日自分が笑ったように笑い、今日自分が声に出さず誰かを思い出していたように、世界の誰かも大切なひとや思い出を心にたずさえて日常を生きているんだということ、普段はなかなか意識しません。でも実際は、そうなんですよね。
僕たちの秘密の番号、きみはまだ覚えてる?
それは90年代のこと。
僕が8歳か9歳だった頃の話だ。
夏だったとおもう。
僕の家族は、古い家に住んでいて、
ある暑い夏の日の夕方
僕たちはみんな庭でくつろいでいた。
母さんは、まだ赤んぼうだった妹を寝かしつけようとしていて、父さんは、お酒をちびちびと飲んでいた。
僕はずっと、当時夢中になっていたテトリスをしていた。
いつも通りの、平和な夜だった。
夜も過ぎると、父さんがまず部屋に戻って、そして母さんと妹も部屋に戻っていった。
僕はひとり庭に残って、遅い時間までテトリスに夢中になっていた。
僕がフェイスと出会ったのはその夜だった。
お隣のセブジおばさんは、北東の街エルズルムから来ていた。よく覚えていないけど、フェイスはお隣さんの甥っ子だったと思う。
とにかく。
僕はその夜、隣の庭にいるフェイスに気づいた。
フェイスは恥ずかしそうに、僕をチラッと見てからテトリスに目を向けた。
僕がフェイスを見ていると気づくと、彼は目をそらして家の中に走っていった。
その夜は、それだけだった。
次の日の夕方、また同じ時間。
また、父さんは庭でお酒をちびちびと飲んだあと部屋に戻っていき、母さんも、妹を寝かしつけに部屋に戻っていった。
僕はまた、庭でひとりでテトリスをしていた。
そして、隣の庭にまたフェイスが現れた。
彼がまたシャイそうに僕を見ていたから僕が
「テトリス、やってみる?」
と話しかけると、彼は
「壊すと嫌だから、いい」
と言う。僕は
「ほら、やってみなよ。」
と強引にテトリスをすすめた。
それが、フェイスとはじめて会話した夜だった。
その夜、明け方になるまで僕たちは一緒にテトリスをして、おたがいのゲームスコアを破るのに夢中になった。
僕はこの町で一番強い男の子エムレのことをフェイスに話し、彼は去年の夏に彼が過ごした山のことを話してくれた。
フェイスは、隣のおばさんの甥っ子らしかった。
「お父さんがこの街に仕事をさがしに来ていて、家族で2ヶ月間おばさんの家にお世話になる予定なんだ。もし2ヶ月経ってもお父さんに仕事が見つからなかったら、地元のエルズルムに戻る。もし仕事が見つかれば、家族でアパートを借りて、この街に残る予定だよ。」
とフェイスは教えてくれた。
「帰らないといけなくなったら、僕の家に残って。一緒に住もうよ!」
と子供っぽい発想で僕は言った。
フェイスは
「お母さんが許してくれっこないよ。」
と言った。
こうして僕たちは、
一番の仲良しになった。
僕たちは朝になると一緒に遊びにでかけて、夕方になると一緒にうちに帰った。
夜になれば、庭で一緒にテトリスをした。
フェイスは僕に木登りを教えてくれ、僕は彼に泳ぎを教えてあげた。
フェイスは手作りのパチンコの作り方を僕に教えてくれた。そのパチンコで一日中遊んだものだった。
僕たちは、会うたびに面白いあそびを考えてはずっと一緒に遊んだ。
例えばなん百枚もの小さな紙きれに、でたらめな指示を書いて…
ー 右に10歩
ー 左に3歩
ー まっすぐ100歩
ー 左に80歩
その紙を交代で引く。
その紙の指示にしたがって街中を探検したりした。
夢中になりすぎて迷子になったこともあったとおもう。
夕方のお祈りの時間を過ぎてしまって、家に帰ったらお母さんにすごく怒られたのを覚えている。
他にも、こんなゲームをした。
ちぎった紙にでたらめなアラブ文字を書いて、誰も見つけられないような場所に埋めて隠す。
「50年後に誰かがこれを見つけたら『謎の碑文が見つかった!』てニュースになるね!」
「そうだ!今までの人類の歴史が変わるぞ!」
2人ともそう本気で信じていて、ワクワクしながらそのでたらめの紙を土の中に埋めた。
ある日ふたりで森で遊んでいた時、
僕たちはまたゲームを思いついた。
「2人だけにしかわからない番号を決めて、その番号をおたがい一生忘れないこと。」
その番号を最初に忘れたほうが、お菓子屋さんでいっちばん高いチョコレートを相手に買ってあげる。
それがふたりで決めた、秘密の番号を忘れた時の罰ゲームだった。
僕たちは毎日、2人しか知らないこの秘密の番号を確かめあったが、どちらもその番号を忘れたことはなかった。
僕の少年時代のなかで、最も美しい時間だった。
こうして僕とフェイスは親友になり、
あっという間に2か月が過ぎ、夏休みが終わろうとしていた。
フェイスのお父さんは、結局この街で仕事が見つからなかった。
フェイスの家族はエルズルムに戻らないといけなくなった。
「また来年の夏、おばさんの家に遊びにくるよ。」
とフェイスは言ったけど、僕は
「うちに残りなよ!」
本気で引き止めた。
「お母さんが許してくれっこないよ。」
と、彼はまた言った。
そうして、僕たちは来年の夏にまた会う約束をして別れた。
でも、それが僕たちの会う最後になった。
その次の年、フェイス達はこの街に戻ってこなかった。
その次の夏も、その次の夏も…。
僕はフェイスにもう一度会えなかった。
そうしているうちに、隣のおばさんもどこかに引越していき、もうフェイスと連絡をとる手段もなくなった。
僕は高校生になってからFacebookやインタグラム、それにツイッター、 思いつくソーシャルメディアで彼を探したが、フェイスらしいアカウントは見つからない。
そうして僕の十代は過ぎていった。
ふたりだけの秘密の番号を検索しても、ヒントが見つからない。
最後の頼みとして、
僕はこの掲示板サイトを思いついた。
ここに書いたらもしかしてフェイスが気づいてくれるかもしれないと思って、
今こうして書いている。
僕があの7桁の番号を忘れてないかぎり、フェイスも絶対に忘れていないとおもう。
この記事を読んだら、フェイス、どうか連絡をください。
会ったときは僕が、店で一番高級なチョコレートを買うよ。
2016年 (アップデート更新は未だなし)。